テオプラストスという恐竜をご存知だろうか。
テオプラストスはブラキオサウルスに近い巨躯を持つ草食恐竜で、角竜類に分類される。その特色はなんと言っても頭部に非常に長い角を持っていることだろう。
同竜の化石は米国のモンタナ州で1856年に発掘されたのが世界初の発見であるが、その個体の角の長さは50mをゆうに超えていた。
そして、不思議なことにテオプラストスの角は高純度鉄で形作られていることが多い(よく知られているように、草食獣の角は骨が変化したものがほとんどである)。
角の成り立ちについては後代に研究が進み明らかになっていくのだが、まずもって当時の研究者達は角を含む全身骨格化石の運搬方法について頭を悩ませたのであった。
ここで唐突だが、テオプラストスの著書を紹介しよう。
…テオプラストスの著書?
かたじけない。
テオプラストスとは恐竜ではなく、古代ギリシアのとある哲学者の名である。冒頭の文章はすべて出まかせなのだ。(でもテオプラストスって恐竜の名前みたいだよね)。
なぜ僕は嘘をついたのか。人をからかうのが好きで、嫌がらせに心躍るたちだからだ。
ところで「いやがらせ」を好む性格は、現代に特有なものなのか。たとえば古代ギリギリシアではどうだったか?
テオプラストスの『人さまざま』はそういう人間の性格やありさまを描破した本だ。
薄くて読みやすいよ
テオプラストスはアリストテレスと同年代に活躍した古代ギリシアの人物である。植物研究にも明るかったようで、植物学の祖とも呼ばれている。
そんなテオプラストスは人間の性格について不審を抱いていた。
「同じギリシアで育って、同じ教育を受けている人たちが、なぜ同じ気質を持たないのだろう。」
そこで彼は、人間の気質を分類・詳述して後世に伝えることで、未来の子どもたちの役に立てようと考えたのである。
すなわち、人の気質の良し悪しを書物によって知ることができれば、良い人間と交わって人徳を高め、逆に悪例をもって反面教師にすることもできるというこだ。
しかし実際の本書には、悪例ばかりがあげつらわれている。以下に一例をあげよう。
「噂好き」
「恥知らず」
「けち」
「いやがらせ」
「横柄」
「臆病」
「へそまがり」
などなど、計30もの愉快なダメ人間たちが各数ページで淡々と紹介されている。そんな本だ。
たとえば「いやがらせ」の項にはこう書かれている。
劇場では、他の客たちが拍手をやめたときに拍手をし、彼以外のものたちが、うっとりとなって観ている俳優を、口笛で野次る。そして、場内がしんと静まりかえっていると、席についている客たちを自分の方へふり向かせるために、頭をうしろへそらして、げっぷをやってみせる。
『人さまざま』岩波書店,p51
みんなが拍手してないときに
大拍手!
うっとりしている人を横目に
大野次!
そして……!
大ゲップ!
そんな要領で各気質の描写が進んでいく。
……
しょうもね~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!
さらにまた、どうやら急いでいるらしい人を見かけると、ちょっと待ちたまえ、と命じる。
さらにまた、大きな訴訟事に敗れて、法廷から退場してゆく人があると、近寄って、祝いの言葉をかける。
『人さまざま』岩波書店,p52
まじでしょうもなくて面白い。
でも、この可笑しさが分かるということは、2,000年以上前の外国人と私達に通じるところがあるということだ。その進歩の無さが哀しくもありおかしくもある。
「へそまがり」の人はこう書かれている。
へそまがりとは、言葉使いの点で、態度の無礼なことである。そこで、へそまがりの人とは、およそ次のようなものである。
すなわち、「誰それはどこにいますか」と人から尋ねられると、「私をそっとしておいてもらいたいですね」と答える。
『人さまざま』岩波書店,p63
いるいる。令和の虎の受験生版によくこういうやついる。2000年以上前からいたんだな。
さらにまた、友人が寄附を求めにくると、出すのはごめんですね、と言いはするが、あとになってそれを持ってゆき、私はこの貴重な金を無駄に失うんですな、と言う。
『人さまざま』岩波書店,p64
わざわざ金を持っていって相手より優位な立場に立ってから嫌味を言う行為、わかりみが深い。きしょすぎる。
ほかにも愉快な人達がいっぱい載っていて愉快、愉快。
恋人の接吻をうけながら「お前さんが、心からこんなふうに私を思っているかどうか、あやしいものだな」と言う。
『人さまざま』岩波書店,p73
構ってちゃんな「不平」家さんや、
田舎暮らしをしていて、自分で扁豆を煮たりすると、二倍の塩を鍋に投げ込み、食べられなくしてしまう。
『人さまざま』岩波書店,p61
ドジっ子気質な「上の空」さんなど、多岐にわたるバリエーション。
そんなテオプラストス著『人さまざま』、書店で見かけたら手にとってみてください。
……ここまで書いといてテオプラストスがほんまに恐竜やったらおもろいな。いや、違うんですけど。
さてさて本記事タイトル
草食恐竜テオプラストスの驚きの秘密とは?!
→答えは「そもそも草食竜じゃなくて哲学者」でした。
ふざけろ。
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