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職場の梅の木が熟れた実を落としていたので拾い集めることにした。美味しそうだったから。

地面に落ちている実のほとんどはカビが生えていて、なかなかいいのが見つからない。結局5個くらいしか拾えなかった。

青梅とちがってぶよぶよと柔らかい。匂いを嗅いでみると桃のような甘い香りがする。汚れを拭ってひとくち齧ってみると、酸味はそこまでなくてほのかな甘さがある。

やはり桃、いや、形容詞が必要だな、出来損ないの桃、そんな味がした。それでも昔食べてたクサイチゴよりはうまい。

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急に梅の木の気持ちを代弁しますけども、彼女は熟した実を食べてほしいと本当は思ってるんですよ。

若い青梅は鳥も食べないくらい美味しくないし、青酸配糖体という毒が含まれています。

言うまでもなく梅の旬は実が黄色くなる頃なんです。

それをなんだ、貧乏根性か食糧難か知らないですが、梅の木が栄養を注ぎ込んでこしらえた果実をわざわざ不味い時期に実をもぎ取って、そのままじゃ食べられないとか言ってビンの煮沸消毒までして漬け込みやがる。何様のつもりだ。

かわいそうじゃないですか。前途ある若者たちが選別されて画一的に真っ赤に染められていく姿。

この飽食の時代、ご飯のおかずは他にいくらでもあるんだし、あるべき姿に戻せるものは戻していかないと。

だから「梅の実をそのまま食べると美味い」という記事をデイリーで書いて反乱を起こそうと思ったのだ。梅のために。

あんまり人様の気持ちとか分からないほうなんですが、不利益を押し付けられているうえに何の庇護も受けていない弱者に対するシンパシーは非常に強いと自認しています。

その場合において心を寄せる対象は無機物であってすらいい。むしろ物言わぬほうがいいかもしれない。

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そういうわけで良さそうな実をジップロックに入れて職場の冷蔵庫に入れました。

明くる日には不安になって冷凍庫に入れなおしたり、やっぱり元にもどしてみたり。意味もなく取り出して眺めてみたり、匂いをかいでみたり。

そんなこんなで収穫してから1週間。

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ああっ……!!

おれの完熟梅はなぜか甘露煮のようになっていた。

ジップロックは梅から出た茶色い汁がドブのように貯まっている。このナリじゃ記事は書けない。

現実逃避のためにふて寝をして、やはり向き合わねばならぬと覚悟を決めて、少し食べてみたら、いやな感じで酸っぱくなっていた。脳が危険だ!と信号を出す感じのすっぱさ。

ごまかさずに言えば腐っていた。

梅のことを考えて動いてきたのに急に梯子を外されたのだ。こういうことはままある。

いじめられている子に声をかけて仲良くなってきたところで、その子がいじめっ子と和解して2人で遊ぶようになって、じゃあ俺の善意はなんだったんだよ、みたいな。

いや、そんな考え方はあまりに自己中心的か。基本的にはいいことなんだから。いじめられっ子くんを心から祝福するのが本当の善意なのではないかね。

どうやら30歳を過ぎて人の気持ちが分かるようになってきたようです。