
「炒り米」というものがある。水につけおいた生米をザルにあげて水気を切り、フライパンで炒って水分を飛ばしたものだ。炊飯米との決定的な違いは長期保存が可能かつそのまま食べられるという点で、そのままポリポリ食べるとお煎餅のような風味でおいしく、米なだけあってお腹も膨れてくれる。非常時には炊いて食べることもできる。
ぼくはこの炒り米に惚れ込み、学生時代のある時期には常に持ち歩いていたほどである。しかし、やはり、みんな炒り米を食べなさすぎだと思う。今日はその良さを伝えたい。
炒り米の圧倒的な合理性

これは炒り米を180mlの瓶に詰めたもので、炊いてあればおにぎり2個分くらいの量。
瓶詰めの炒り米をバッグに忍ばせたその瞬間に、その後数日間のランチの心配は無用になる。
朝の忙しい時間に弁当をせかせか準備をする必要はなく、コンビニに立ち寄って要らないものまで買う必要もない。おにぎりのように不注意で潰れたりもしなければ、夏場でも腐ることはない。どれだけ厳しく見積もっても1ヶ月は保存が効き、保冷も温めも不要で食べる時はフタを開けて口に入れるだけ。面倒な洗い物も出ないうえにコストは数十円。ああ、どれほど心強く合理的な食事だろうか。これぞズボラ飯の終着点である。
炒り米の作り方

レシピというほどのものでもないけれど炒り米の作り方を紹介しよう。大きめのボウルに分量も計らず米をドバッと入れて、

何度か水を交換しながら米を洗い、多めの水につけて30分放置。その後ザルにあげて20分ほど水気を切る。

米の水気が切れたらフライパン(油は引かない)にボウルをひっくり返し、根気強く炒って水分を飛ばす。ちょっと多いかな?と思ってもかさは減るので大丈夫。

だいたい茶色がかってきたら完成。ムラは出て然るものなので深追いしないのがミソ。
そのまま食べるとポリポリとした歯ごたえで素朴なお煎餅のような味。せんべいの風味は醤油の香ばしさではなく米由来のものだということを感じる。その硬さゆえ必然的に何回も噛むことになるのだが、それにより満腹中枢が満たされ少ない量でお腹がいっぱいになるのも良い。

味変が楽しいので一例を紹介。カレー粉なんかもいいが今日は甘めの醤油ダレを絡ませて…

照りを演出するのもこれまたオツ。食べてみる。

うますぎてニヤける。焼きおにぎりの外側のカリカリ部分とおんなじ!一番美味しい部分が無限に食べられるのだ。これを「焼きおにぎらず」と名付けよう。同名のレシピは多く見つかるが、こちとら成形すらしてないんだから筋金入りだぜ。

プレーンタイプを大きめのボトルに入れて保管することにした。同じ量の米を炊いておにぎりにしてみたら大きめ5つ分に。結構な量である。これでしばらく昼ごはんのことは考えなくてよくなった。ぐへへ。
腐らない大量のおにぎりがフタを開ければいつでも食べられるのだから、これはもう偉大なる魔術と言って差し支えないですね。ヒトの腹ひとつも満たせないで何が魔法かね。

炒り米の良さをまとめておいた。
炒り米でおかゆを作ろう

せっかく瓶詰めにしたのでお出かけしよう。炒り米の魅力はまだまだこんなもんじゃないのだ。

火、水、炒り米を用意しておかゆを作る。キャンプの炊飯は面倒だが炒り米ならラクラク。

炒り米を水に浸して30分ほど浸水を待つ。ちなみにこの水を飲むと炒り米の香ばしさが移っていてうまい。飲みすぎには注意だ。

いい天気。寝てりゃ米が食えるんだから大層な身分になったなあ。

30分後。中心部に水分が残っているおかげか生米よりも柔らかくなるのが早くて便利だ。このままでも食べられないことはないが少しだけ火を加える。焦げ付かないように箸でぐるぐるかき混ぜながら水気を飛ばしていく。

米が柔らかくなったら乾燥昆布と梅干しを加えておかゆの完成である。炒り米の風味がよく、普通のおかゆと比べても勝るほど美味しかった。塩分は昆布と梅干から出るものに頼ったがちょうどいい塩梅。調味料の準備も臆することなくサボっていこう。
これのなにが良いって、材料のすべてが常温で保存可能ということ。炒り米その他一式を常備しておけば震災などの非常時にも温かい米がすぐに食べられる。中華スープやツナ缶でのアレンジも◯だ。

SNS映えも抜かりなし。

ところで、童話「おむすびころりん」はお爺さんがおむすびをネズミの巣穴へと転げ落とすことで物語がはじまるが、現実ではおむすびを落としたところで大して転がりはせずただ土まみれになるだけである。
物語ならざる現実を生きる我々はおにぎりをビン詰めにするくらいの強かさを持たねばならない。でもネズミたちだって炒り米の素晴らしさには惚れ惚れして小躍りしてくれると思うな、僕は。こんなに良いものなんだから。
乳がゆを作る

今度は炒り米で乳がゆを作ってみる。乳がゆはブッダが悟りを開く直前に口にした食べ物で、かねてより憧れていたが一度も食べたことがない。炒り米で作れば吸水が早いので楽なんじゃないかという算段のもと挑戦。
炒り米のほかにマンゴー、苺、牛乳、砂糖を用意した。鍋で牛乳を温めて砂糖とフルーツを加える。続けて炒り米を投入し、底が焦げ付かないように弱火でしばらくかき混ぜる。米が柔らかくなったら器に盛り、火を通していない苺と着色した炒り米を食感と彩りのために振りかける。

できあがったのがこれだ。食べてみると「美味しい」より先に「身体のエネルギーの源だ」という感想が漏れる。米が甘いという違和感をスンナリと受け入れられるのは米を茶色く炒ったことの恩恵かもしれない。トッピングの炒り米のカリカリ具合もなかなかいいもので、単調なおかゆの食感に楽しみを増やしてくれている。冷やして食べることも試したが温かいほうが美味しかった。
おわりに

炒り米はすごいぞ。一度でいいから炒り米を容器に入れて持ち歩いてみてほしい。食うものが確固としてそこにあるという安心感を体験してほしい。当たり前のことだがお金は食べ物ではないので非常時に口に入れることはできない。
さあ、何もない休日に立ち上がって炒り米を作ろうじゃないか!未来(休み明けのランチ)のために!!
ガダーイは炒り米を籠に入れてかじりながら畑の畔道を歩いていた。雨を告げる黒雲がみるみるうちに頭上にひろがり、あたりがうす暗くなった時、白い鶴の一群が黒雲を背景に飛翔し去ったという。美しく、そして異常な興奮をおぼえさせる光景で、この途端、ガダーイは外界の意識を失い、籠は落ちて炒り米は地に散乱した。
『人類の知的遺産53 ラーマクリシュナ』(昭和58年),講談社,奈良康明,93
近代インドの聖人も炒り米を食べていたという。これにかぶれて作るようになったが、多分、真似するところを間違っている。
コメント
コメント一覧 (1)
いや〜今回の炒り米、本当に魅せられました。
全てにセンスがあるなと思いました。
昔授業の古文でやった「かれいひ」を思い出しました。
かれ-いひ 【乾飯】
乾(ほ)し飯(いい)。 飯(めし)を乾燥させてつくった携帯用の食料。 湯や水でもどして食べる。 「かれひ」とも
↑こっちは不味そうですね(笑)
お菓子にもおつまみにも、おにぎりの代わりにもなる手軽さ、本当に巷で流行ってほしいと思いました。
川で炒り米を食べる、センスのある瓶(そこ?)まさに大人の休日です。
good100点、言うことなしだと思います。
くっちゃん
が
しました