宮崎のとある駐車場でレシートを拾った。店名の欄には「重味青空楽市」とあり、調べると熊本の店らしい。内容を詳しく見てみよう。
ー拾ったレシートー
おこわ ¥300
おにぎり弁当 ¥200
すけろく弁当 ¥350
豚軟骨の煮込み ¥300
杵つきあんこ餅 ¥250
おそらく3、4人のグループ。9時ごろという購入時間からして遅めの朝ごはんの内容だろう。たいていの男はモチを買ってまで食べないので1人は女性がいる。豚軟骨の煮込みはおこわ単品と組み合わせるのか、あるいは皆でシェアして食べるのか。謎が多いがそれはまあよし。レシートにはまだ続きがあるのだ。
人文字のぐるぐる ¥200
なんだそれは。九州で生まれ育った同僚に尋ねると知らないという。私の故郷の関西でも聞いたことがない。ただ軽減税率の対象なので食べ物だろうと推測はできる。
ありとあらゆる情報がなだれ込んでくる今の世だから、見たことも聞いたこともない言葉と出会える機会は限られている。僕は偶然目にしたこの「人文字のぐるぐる」というおもしろの萌芽を大切に守り育てたい。ネットで調べれば答えはすぐに分かるだろう。しかし俺が知らない、俺の友達も知らない、それが大事なのだ。
そういうわけで拾ったレシートの店舗がある熊本県菊池市へと車で向かった。何の変哲もないものだったら記事をどう書き上げようかという不安とともに。
※拾ったレシートは施設の方に渡しました
人文字のぐるぐるを想像してみよう
実際見にいく前にどんなものか家で想像してみる。ネットで調べるような野暮なことはせず空想を楽しもう。
思うに、漢字の「人」という文字に成形した生地がカリッと揚げられている、うすら甘いお菓子ではないだろうか。チュロスのように生地がぐるぐるとねじってあるのだ。ヘタな絵で申し訳ない。
福岡出身の後輩は「弁当箱の中で人っていう文字がぐるぐる回ってるんじゃないすか」と言う。そんなおもろいもんが200円で買えるわけないやろ!
情報を断片的に集めよう
想像を膨らませたところで、菊池市に行く前に熊本市内の美容院に立ち寄った。来週人と会う予定があるのだ。実物を探す前にお世話になっている美容師さんに聞いてみよう。もみあげを刈り上げられながら。
ーー「人文字のぐるぐる」というものを知ってますか?
知ってますよ。ひともじぐるぐる。
ーー熊本の人はみんな知ってるんですか?
みんな知ってるはずですよ。
ーー特徴をそれとなく教えてください
色は緑です。この近くでも食べられますよ。
ーーやっぱり食べ物で、それも緑色なんですね!
そうです。僕は3年に1回くらい、店で注文して食べますね。熊本県民は意外と辛子蓮根(熊本名物)を食べないんですけど、そんな立ち位置です。若い子はあんまり食べないかな。謎をひとつ増やしていいですか?酢味噌をつけて食べます。
ーー人文字のぐるぐる、好きですか?(別の方に聞いた)
人文字のぐるぐるは1回食べたことがあるんですけど、どちらかと言えば嫌いですね。友達のお母さんが作ってくれたんですが合わなかったです。食べれるけど好んで食べない感じ。(20歳女性)
よし、ここまでの情報を整理しよう。現時点では全く想像がつかない。面白くなってきた。
【これが人文字のぐるぐるだ!】
・熊本名物・緑色
・酢味噌をつけて食べる
・お店で食べることができる
・家でも作れる
・日常的に食べるものではない
・若い人はあまり好んで食べない
菊池の物産館へ ついに正体をつかむ
菊池市は人口47,000人、米やメロンが名産の小さな町である。僕の住む宮崎の町からは車で2時間ほどの距離。別日にたまたま九州の形をしている苔を拾ったので菊池市の大まかな場所を図示しておいた。
拾ったレシートのお店は週末のみの営業ということだったので別の物産館にやってきた。
お弁当コーナーを中心に探してみるが、それらしきものは見当たらない。もう売り切れてしまったのか。レジの方に聞けば何か分かるかもしれない。
ーー「人文字のぐるぐる」ありますか?
今年はもう終わったよ。今は種になってる。季節じゃないからどこにもないと思いますけどね。…た、種になっている?
さらっとすごいことを2つ言われた。人文字のぐるぐるは種になるということ、今は手に入らないということ。酢味噌で食べることからコンニャクの加工品だと推察していたがどうやら違うらしい。いよいよ本格的にわからなくなってきた。迷惑にならないうちに引き上げて観光案内所でも聞いてみる。
ーー人文字のぐるぐるを探してやってきたのですが
あぁ〜!ありますよね!言われてみれば私もよく食べますよ。どう説明しようかな。ちょっと画像を出しますね…。(画像を印刷してくれた)………
これが人文字のぐるぐるだ!(wikipediaより)
茹でた「ひともじ」を根元で折って余った葉をぐるぐる巻きつけたものに酢味噌をかけて食べるんです。ひともじとはネギのようなもので、植えられている時の葉先が「人」という文字のように見えるからそう名付けられたそうですよ。(観光案内の方、談)
答えがすんなり出てしまった。「人文字のぐるぐる」とは、要は「わけぎのぬた」のようなものだったのだ!あまりに想像の外すぎてあっけに取られてしまうが、インターネットなしで答えに辿り着けたことが嬉しくて少しだけ足が震える。あースッキリした。
参考画像が分かりづらかったので自宅で再現。記事の最後で食べます。
観光案内の方がツテを辿って詳しい方に聞いてくださったが、やはり今の季節は食べられないという。春口と秋口のものは甘くて美味しいらしい。そもそもレシートを拾ったのは4月の中ごろで撮影日は5月16日。来るのが遅すぎたようだ。
応対してくれたお姉さんの好物だという日向夏をたまたま持っていたのでプレゼントしてお別れ。飛び跳ねて喜んでくれた。
他の店舗もいくつか回ってみたがどこも取り扱っていなかった。人文字のぐるぐるを土産として職場に持って行って、みなの反応で記事をシメようと思っていたのだが、さて、これからどうしようか…。
菊池市はおもしろい
せっかくなので菊池市を少しぶらついて帰ることにした。動物病院の看板がクセ強め。ほかで見たことのない遊具。指差す先には…
巨大な孔子の像があったりして。
道端に白い犬が放置されているぞ!おもしろだ!!と思って近づいてみたら
まごうことなきヤギだった。
「ひともじぐるぐる」を家で再現しよう
要は細いネギをサッと茹でて一本ずつ巻いて酢味噌をかけるだけなのだ。地元のスーパーで材料を買って「ひともじぐるぐる」を作った。見た目の再現度はそこそこ。わけぎのぬたも食べたことがないので正真正銘の初実食である。その感想は…?
まあ火を通したネギに酢みそつけたらこれになるわな、というそのままの味。僕はまだ若者の側だった。
おわりに
前文にも書いたが、こんなことはネットで調べればすぐに分かる話である。それでも僕は熊本まで車を走らせた。説き伏せられるような大義はない。ただ面白そうと思ったからだ。
熊本の人は明るい。話を聞いた人みんなが明るく笑顔で質問に答えてくれた。こっちまで笑顔になった。僕は休日を使って町に出て、世の中の笑顔の総量をほんの少しだけ増やせたのだ。それだけで十分じゃないか。
ヤギ転がってたのが一番おもろかったなー。撮れなかったけど野猿もいた。
【取材協力】
・gift hair salon
・菊池観光協会
コメント
コメント一覧 (1)
自分は長野に住んでいまして、そう言うご当地の食べ物、、、朴葉巻きがありました。(⌒-⌒; )
ぜひ調べてみて下さい。家ではしょっちゅう食べます。(笑)
くっちゃん
がしました