
暑い時期に森の中を歩いていると紅色に輝く宝石のようなものが見つかる。正体は杉の樹脂で、いわゆる杉ヤニというやつらしい。
上の写真に写したのが現物であるが、あまりに美しくないだろうか。緑と茶色ばかりの森林に場違いなキラメキと配色をもたらしている。
また、樹脂は「脂」という字を含んでいるからして、よく燃えるんじゃないかと根っから文系の私は思うのだ。そうだ、ヤニを集めて火をつけパーッと明かりを灯そうじゃないか。粋な男は宵越しの財を持たずして生きる。
ということで杉ヤニを採取してまわってみた。

杉が立ち並ぶ遊歩道のなかでこぼれ落ちた樹脂を探す。山の中は容赦なくダニやら蛇やらが出るので長靴とカッパはマストだ。

ものの数分で早速見つけた!

見よ、無編集でこの美しさである。半透明のボディに自然の光が反射してなんとも綺麗だ。これが平気な顔して落ちてるんだから山はすごい。

手に取るとこんな感じ。物によって茶色がかっていたり赤っぽかったりする。べたべたした触り心地。
さて、唐突だが重要なことをお伝えしたい。


杉ヤニは一度触ったがさいご、水で洗おうが石鹸で洗おうが落ちないので注意が必要である。
既視感を覚えてふと考えてみると、これはドラクエのミミックに襲われた時と同じ状況である。ミミックとは宝箱に擬態するモンスターで、アイテムを求めて宝箱を開けようとしたプレイヤーに襲い掛かる厄介者。
杉ヤニは宝石だと思って手に取るとベタつき攻撃をしてくる。ふつうは宝箱とモンスターの判別くらいつくだろうと画面の中の勇者を厳しく見ていたが、こういうことかと少し反省した。しかし反省で飯は食えない。手のベタつきがなんだと言うのか。ササッとヤニを回収しよう。

そこらに落ちていた小枝を箸代わりに、ワンカップの蓋のなかに集めていく。これならくっ付けずに回収できた。

今度のは少しオレンジっぽい色をしている。倒木の上にあったがこの木からしみ出たわけではなく、どこかから落ちてきたのが乗っているだけ。
当然ながら杉ヤニは杉の付近で多く見つけられる。地表にあるものより根や葉の上にちょこんと垂れた物のほうが発見しやすい。

貯まってきたので匂いを嗅いでみる。自慢じゃないが嗅覚は人より優れている自信があるので的確に表現したい。ふむ、これは…。

新築の香りがする!
要は杉の匂いなのだが、建てられたばかりの木造建築と同じ匂い。「森の匂いがする」なんてよく言うが、実のところ森は人を真に感動させるような香りを放たない。製材された杉のほうがよっぽどリフレッシュさせてくれる。
母さん。貴女が夢に見た豪邸なんてもんは建てられそうにありませんが、新築の匂いだけは手に入れることができました。これはいいものですよ。


なんと木の幹から漏れ出ているのを発見!
京都から宮崎に移り住んで延べ6年ほどになったが、こんなのは初めて見る光景である。う、嬉しい。これを生ヤニと呼ぼう。

集めた樹脂がひとりでにまとまったが、ゴミや土が混入してあまり綺麗じゃなくなってしまった。

それでも光を当てた途端に宇宙の気風をまとうから不思議。コハクみたい!と興奮するも、そもそも琥珀は樹脂の化石だ。これを玄関に飾ると華やぐ上に新築気分が味わえる。
よし、集めるのはこんなところでいいだろう。夜を待って明かりを灯そう。私の想像ではロウソクのように優しい火を届けてくれるんじゃないかと思う。

サンプル。こんな感じで火をつけたい。

杉ヤニをバーベキュー串に塗りたくり火をつける。どれだけ燃えるか分からないので柄の長い串を用意した。ここからは動画でどうぞ。

違うんです。家にライターが無かったんです。蛍火のように幽玄で優しい明かりを灯したい気持ちはあったんです。本当は松明みたいにしたかったんです。

勢いのある線香花火みたいで楽しくて、炙るのに夢中で、ふと我にかえると杉ヤニは燃え尽きていました。後に残ったのは新築を燻したような香りと煤だけ。泣きの一回、再度挑戦させて下さい。また集めます。

どうだ!想像通りの火が着いた!

綺麗だ…。他に何も言うまい。
おわりに
私は伏し目がちに生きているので地面の虫やゴミがよく目に入る。今回はかねてより注目していた杉ヤニで遊べて楽しかった。こんなに変なものがそこらに転がっているのだから、やっぱり田舎はおもしろい。当の現地の人は「そげなもんでなにすると?」と言っていたが。
杉ヤニの良いところばかり書いたが、車にべっとり着くと中々取れず厄介だったりもする。「夏場は木の下に車停めちゃダメよ」とガソリンスタンドのおばちゃんに教えられたあの日を思い出しつつ、今日はそんなところで。
森の中の杉よ、ありがとうございました。

ズボンのポケットに入れていた容器がひしゃげてヤニが台無しになったときの図。
※なお、杉ヤニは地権者の許可を得て採取しており、火器使用は私有地で行なっていることを付記しておきます。素手での火遊びは危険です。
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あいやまたれい!
日記、思想、ゲーム記と『コロコロコミック』くらい様々な要素が入り混じっている当ブログですが「企画カテゴリ」にて力を入れた記事を公開しております。あんじょうよろしゅうたのんまっせ。
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