誕生日を迎える度に
何を祝うのかが ずっと ナゾだった
見えなくなってしまったものは
二度とかえらないと知ったとき
年を経ることに後悔と
一日が過ぎていく恐怖を感じた
(※)どうにもならない 今日だけど
平坦な道じゃきっとつまらない
きみと生きてく明日だから
這いあがるくらいで ちょうどいい(※)
脇道を独り歩く
そんな自分にみとれてみたり
歩き疲れたあの人へ
冷たい言葉を平気で放つ
調子づいてた小さな自分
風にあそばれて やっとここに立っていた
(※繰り返し)
転んでできた傷のいたみに
みあう何かを求めたなら幻
どうにもならない 今日はせめて
笑い話にかえられますように
君と生きてく明日だから
這いあがるくらいでちょうどいい
(※繰り返し)
作詞、作曲:奥井亜紀
上に引用したのはシンガーソングライター奥井亜紀さんの楽曲『Wind Climbing ~風にあそばれて~』の歌詞全文である。アニメ『魔法陣グルグル』のエンディングテーマ曲として広く知られており、今でも多くの人に親しまれている。
私がこの曲を初めて耳にしたのは小学生の時だったが、爾来心のどこかに引っかかっていて折に触れ何度も聴き直している。一体この曲の何に惹きつけられているのか、歌詞の解釈をして紐解いていきたい。幸いオフィシャルの動画が見つかったので初めに貼り付けておく。
(ライブドアブログではJASRACが管理する楽曲の歌詞掲載が認められています。)
誕生日を迎える度に
何を祝うのかが ずっと ナゾだった
見えなくなってしまったものは
二度とかえらないと知ったとき
年を経ることに後悔と
一日が過ぎていく恐怖を感じた
誕生日を迎えて何を祝うのか分からないのは日常を当たり前だと思っているからだ。住む家があり両親がいて食べることにも困らない恵まれた生活。生き続けられるのは周りの助けがあってこそで、実のところ当たり前のことではない。1年無事に生き延びることのできた尊さに気付かない子供の真に素直な心情を歌っている。
いつしか物心がついて大切な何かを失ったとき、命や日常は当たり前のものじゃないということに気づく。無限に続くと思っていた自己の存在も有限であることも知るが、かといって「だから1日1日を大切に生きよう」なんて簡単に割り切れるはずもなく、ただ後悔と恐怖が身を包む。
脇道を独り歩く
そんな自分にみとれてみたり
歩き疲れたあの人へ
冷たい言葉を平気で放つ
調子づいてた小さな自分
風にあそばれて やっとここに立っていた
サビを挟んでまた別の情景。他人と違う生き方をする自分に惚れ惚れする若さゆえの痛々しさを率直に描いている。自分は脇道に逸れて楽をしているくせして、辛い思いをしながらも本道を歩んでいる仲間の気持ちを分かろうともせず踏みにじる。人に助けてもらっていることに気づかないから、自分は人を助けようともしない。身に覚えのある人は多いはずだ。
そして大人になって昔を振り返ったとき、ちっぽけな人間風情がどう頑張ったって結局は風のように気まぐれな運命に振り回されているだけなのだと悟る。
どうにもならない 今日だけど
平坦な道じゃきっとつまらない
きみと生きてく明日だから
這いあがるくらいで ちょうどいい
どうにもならないと人生を諦めることは容易である。山あり谷ありの運命を認めつつも精一杯生きるからこそ限りある命が輝くのだ。
「きみ」が意味するのは単にパートナーなのか、自分なのか、運命なのか。それがなんであれ、全てを乗り越えて運命を変えてやる!なんて無責任な誓いは立てない。這い上がるくらいでちょうどいいのだという内省的な態度が胸を打つ。
転んでできた傷のいたみに
みあう何かを求めたなら幻
どうにもならない 今日はせめて
笑い話にかえられますように
ここが最も難しい。
風に遊ばれるちっぽけな我々は時に辛い思いをさせられることもある。あるいは辛いことばかりかもしれない。
しかし「苦労は必ずは報われる」なんて人間の規則でもってして、運命という神秘に何かを要求することは幻影を追うが如し。
人間のルールがあって世の中があるんじゃない。先に世の中があって人間がそこで生かされているに過ぎない。
たかが100年、どうにもならないならせめて笑って生きようじゃないか。万事うまくいくわけがない。
生き方や人生論について説くとき人は横柄な態度をとりがちだが、この曲はまったく説教臭くないし偉そうじゃない。私たちと同じように悩み苦むちっぽけな人が同じ目線でエールを送ってくれている。
頑張ればなんとかなる!なんて無責任なことも言わない。人の力ではどうにもならないことがあると知り、這い上がることからすべてが始まる。あたたかい血の通った人間にしか書けない優しい曲だから惹かれるのだと気づいた。
コメント
コメント一覧 (2)
くっちゃん
が
しました
あたたかいコメントありがとうございます涙
本当にいい曲ですよね。
くっちゃん
が
しました